About
僕はこれまで、
周囲の出来事にすぐに反応することがどうしても難しく感じてきました。
医師からは発達特性のグレーゾーンやパニック症状のことを告げられたこともありますが、
それらは単なる診断名というより、
世界のスピードと自分のスピードが微妙に噛み合わない──
その実感に与えられたひとつの名前のように思えました。
出来事は見えているのに、
心に届く前にほどけてしまうことがある。
言葉を受け取っているのに、意味の形になる前に霧のように散ってしまう。
僕は長いあいだ、そうしたわずかな遅れの中で生活してきました。
その遅れのなかで、
自分の内側と外のあいだに、
どうしても埋まらないわずかな距離があることに気づきました。
何かに触れようとしても、その少し手前で止まってしまう、
情報としては届いているはずなのに。
心のほうが追いつかない。
その小さなズレを、私はずっと経験してきました。
劇的でも特別でもなく、
ただ日常の中に当たり前のように存在している感覚です。
制作は、その感覚を説明したり整理するためのものではありません。
むしろ、触れ損ねた瞬間を、
無理に意味へ変換せず、そのまま置いておくための方法です。
そいういう少し手前で止まってしまう出来事を、
形になる前のままで残しておきたいだけなのかもしれません。
僕は、すぐに理解できないことや、
意味になりきらないまま残る感覚に強く惹かれています。
それは曖昧さというより、
自分が世界とどう関わっているのかが、
いちばんよく見える地点でもあります。
たぶん、僕はこれからも
そのわからないままの場所を扱い続けるのだと思います。
作品は、世界に追いつくためのものではなく、
手放すには早すぎた何かの、
ほんの少しの居場所なのかもしれません。
いまは、そのくらいの役割でちょうどいい気がしています。